Bさん(第2期 40代 夫婦+子ども1人 自営業)


――なぜ、糸島トライアルステイに応募したのですか?

(妻)私は、生まれも育ちも東京で、「いつか緑に囲まれた環境の中で静かに暮らしてみたいなあ」という思いを持っていました。夫は、東京で設計事務所を自営していますが、もともとおしゃべりが大好きなので、「老後は、いろいろな人とゆったりおしゃべりを楽しみながら過ごせる場所をつくったらどう?」って話していたんです。


(夫)東京の仕事を辞めるかどうかは別として、僕も、生活の中に第2の拠点として、そんな心地いい場所をつくるのもいいなあと思いました。ただ、本当の老後、つまり60代になって始めると、気力・体力的にきつそう…。やるなら40代のうちに動いた方がいいなと思って、物件探しに動いてみることにしたんです。


――その中で、糸島市に惹かれた理由は何ですか?

(夫)実は、私は福岡市出身で、糸島市のことは以前からよく知っていたんです。海あり山ありの魅力的なエリアだと…。糸島トライアルステイの情報をネットで見つけて、すぐに応募を決めました。実際に、土地を探す行動に出たのは、今回のトライアルステイが初めてでした。


(妻)夫の両親が熊本県阿蘇市に住んでいるので、毎年夏休みには帰省がてら、家族3人で九州内を旅するんです。私にとって九州は、めったに行けないあこがれの地という感じで、本当に楽しくて。素敵なところはいろいろあるのですが、唐津方面に向かうドライブで糸島市を通ったのですが、そのとき、海沿いの景色にすごく感激しました。海沿いのドライブは、まさに絶景。作家さんや職人さんも多くて、ポテンシャルが高い場所だと感じています。それから、東京の母から、「糸島には、その土地でしか赤く色づかない『芥屋かぶ』という伝統野菜があるらしい」と聞いています。すごく物語性を感じる魅力的な話ですよね。そういう農産物にも、糸島のポテンシャルを感じます。


近所で川遊び。ホタルのえさになるカワニナもたくさんいた

 
――糸島市で土地を探してみて、どのようなことを感じましたか?

(夫)糸島市も広いですが、実家が阿蘇にあるからなのか、憧れるのは逆に、海が見えるような場所で…。糸島市内の不動産屋で物件を聞いたのですが、「波の音が聞こえるような場所に空き地はないですよ」と言われました。高台には別荘地があるけれど、イメージと違う。思うような物件には出会えませんでした。


(妻)市街化調整区域のことも聞きました。もし、カフェのようなお店を開くとなると、市街化調整区域には新たにつくれないんですね。私たちは都心に住んでいるから、どこにでもある大型の店舗なんかが並んでいない景観が、逆にその地域のカラーを生み出していて、本当に貴重だということがよく分かります。その魅力を安易に崩しちゃいけない。その意味で、市街化調整区域は貢献しているのでしょう。ただ一方で、移住希望者がカフェや雑貨店などのお店を出したいというようなことが認められる道があればいいなあと思いました。例えば、人気の観光地の神奈川県箱根町は、自然景観を守るための「景観条例・景観計画」があります。建築物の高さや色、緑地面積など、厳しく決められている。糸島市もブランド力が上がってきているし、景観保全のためのルールを別途つくってまちづくりを進めてもいいのではないかな、と感じました。


地域コーディネーターの方が用意してくれたそうめん流し

 
――糸島の住み心地はいかがでしたか?

(夫)まず、アクセスがとても便利ですね。私は、仕事の関係で週に1回東京に戻っていたので、妻に車で送迎してもらいましたが、都市高速で一直線で行けるので本当に早い。伊万里や有田といった焼き物の産地ともアクセスがいいし、住んだとすると、楽しみが広がるなーと思います。大阪や東京とも行き来しやすいから、全国から人が来やすいエリアですね。それに、コンパクトで住みやすい福岡市中心部まで地下鉄で30~40分というのも、大きな魅力。東京と鎌倉の距離感と似ているかな。


(妻)田舎暮らしには憧れるけど、山籠もりするのは、トレンド感を失ってしまうようでイヤだというような人には、打ってつけのエリアかもしれませんね。


――今回の滞在で、特に印象に残っている出来事を教えてください。

(妻)地域コーディネーターの方に教えていただいた川遊びのスポットがあって、子連れでも安心してゆっくり楽しめたのがいい思い出です。その方はとても親切にしてくださって、流しそうめんまで振舞ってくださったんですよ。福岡市から姪っ子たちも遊びに来ていたんですが、子どもたちも喜んでいました。あとは、福岡市の海釣り公園にも行きました。釣りは初めてだったんですが、娘とアジを80匹釣りました! から揚げや南蛮漬けにして、毎日アジ三昧。すごくいい思い出になりました。


親子でたくさん釣ったアジ。毎日のように食べた

地元の食材は、確かにおいしくて、雷山豆腐など地元のお豆腐はとても美味しくて、朝ご飯か夕飯に必ず食べた食材でした。娘がいつもよりトマトやキュウリのような野菜をたくさん食べてくれたことも、すごくうれしかったです。 子どもにとっては、畑で「本物」を近くで見られるのはいいと思いました。例えば、近所に里いも畑があったのですが、都会育ちの娘は、葉っぱを見ても里いもが育っていると思えない。自分たちの食べているものが、どこでどんな風に育つのかを身近で感じて成長できる環境は、子育てにもいいのかもなあと思いました。


(夫)素晴らしい海があるんだけど、海遊びをしている人は、案外少ないんだなあという印象でした。アウトドアの遊びを教えてくれる場所があれば、さらに糸島の魅力が増すような気がしますね。


――地域の人と交流はできましたか?

(妻)私たちが滞在した本行政区の区長さんが、地域がどのようにして回っているか、いろいろと話してくださいました。「祭り、草刈りは行政区組織による自治で行っている。それにかかる費用は住民で出し合っているし、住民がかかわる活動もいろいろあるんですよ」ということ。東京では町内会費も200円程度ですが、こちらでは、東京では支払わないお金を住民が払うことで地域全体が回っている部分があることを理解できました。それまで、ふわ~っと田舎暮らしを想像していた感じですが、現実的な話を聞いて、具体的に生活をイメージできるようになったので、非常に有意義でした。簡易水洗トイレのことも知りませんでしたが、ちょうど業者の方と話す機会があって、くみ取りに結構お金がかかることが分かりました。トライアルステイして、田舎暮らしでかかる費用や地域運営のことなど、これまで想像できていなかった部分を知ることができたのが、とても良かったです。


(夫)今回、たまたまこの本行政区に滞在したのですが、今は夫婦で、すごく住みたいなあと思っています。住めば都なのでしょうか、糸島の中でも、このエリアがいいなあと思っています。


子どもが、夏休みの自由課題でつくった糸島市の地図