足掛け3年に及んだ住まい探し。コロナ禍でも充実の田舎暮らしを満喫中。

東京の大手ゼネコンで、建築士として忙しく働いていた真鍋さん。リタイヤ後は晴耕雨読の田舎暮らしをしたいと考えていた。2017年2月、実家のある北九州市と同じ福岡県内、糸島市が実施した移住体験宿泊事業に参加。約2週間の事業期間中、市内を精力的に見て回り、多くの人と出会う中で、移住の意思を固めた。建築士らしい物件の検索方法にも注目したい。

移住体験宿泊事業には妻と二人で参加しましたが、会社に無理を言って休んできたからには、滞在中にどの地区がどんな所か、住まいを決めるのは難しいとしても、できるだけの情報を得て帰りたいと思っていました。
移住希望者がよく利用するというゲストハウスで、「気に入る物件を探すのは時間がかかりますよ」と聞いて、焦っちゃだめだ、と思いました。古民家希望だったので、なおさらです。
また、できるだけ自然災害を受けにくいエリアで探すため、市販の住宅地図に、糸島市のサイトからダウンロードしたハザードマップの情報を落とし込みました。大変な手間でしたが、こうすることで、住みたいエリアや物件所在地の災害予想状況が一目でわかります。妻は毎日、ネットで物件検索。グーグルマップやグーグルアースもとても役に立ちました。

仕事のない日は自宅の畑で野菜作りに精を出す真鍋さん。みかん山が欲しいと、野遊びの夢が膨らむ

インターネット検索は、東京に居ながら、効率の良い手法だったものの、良い物件になかなか行き当たらない。「期限を切って探さないと、いつまでたっても移住は叶わない」と、最終的に2019年5月、取れるだけの年休を取って夫婦で再度、糸島へ。ようやく「これは」と思える物件を見つけた時、移住体験から2年半が経過していた。

古民家にはこだわらないことにしました。また、駅から徒歩45分以内とエリアを広げてもみましたが、なかなか見つからず、一時は賃貸も考えるほどでした。なぜ45分か? お酒を飲んで帰るときに、そのくらいだったら歩けるかな、と(笑)。

そんな中で出会ったのが、昭和60年代建築の和風住宅です。ちゃんとした木造の、竹小舞(土壁の下地に使う細い竹を組んだもの)の土壁がとても気に入り、購入を決めました。ずっと住まわれていて傷みはほとんどなく、ほぼそのままの状態で入居できたのは助かりました。なにより、売主さんから直接、近所付き合いなどを教えていただいたのが、本当に良かったですね。。

自宅そばの加布里神社参道。地元では祭事や清掃活動など住民が協力して行う行事も活発
 

念願の糸島暮らし。リタイヤ後も、頼まれて設計の仕事を継続しているが、どうやら仕事よりも農作業優先といった雰囲気。東京ではTV番組「人生の楽園」を毎週、観ていたという真鍋さん。「育つものはかわいい」と、野菜作りを手始めに、やりたいことは膨らむ一方だ。

手始めに敷地内に3畝(約15㎡)、畑を作って夏野菜を育てました。まもなくして、糸島で週末、野菜作りを楽しんでいる福岡市内の友人の紹介で畑を借りることができました。よくよく聞いてみると、すぐご近所の方がお持ちの土地であることがわかり、ご縁とご厚意に改めて嬉しく思いました。
仕事以外の時間は野菜作りを楽しんでいます。タマネギ、馬鈴薯、ニンニクなど、栽培面積は倍以上に増えました。育つものはかわいいですね。野菜作りは手が抜けません。たまたま上手にできると嬉しくて、知人にあげたくなります。妻も得意なパンを焼いたり、イチゴやユズ、甘夏でジャムを作ったり。今般の外出制限の中、どこかへ出かけるよりも、家にいる時間がとても充実しています。

奥様お手製のパン。ジャムなど手作りの楽しみは、糸島に来て大きく広がった。

他にも、敷地内の物置にDIYの工具をそろえて作業場にしました。先日は車庫の壁の塗装が終わり、木の格子をつける予定ですし、そろそろ家の間取りも変えたいと思っています。自分でできることが広がるのは楽しいですね。
今、甘夏やキンカン、柿などが育つみかん山が欲しいんです。私が育てて収穫し、妻がジャムや干し物にして知人に配る。山にはタケノコが出るかもしれない。先輩移住者の方々の活躍を目にして、夢はますます広がります。

自宅車庫の補修工事を行う真鍋さん。仕事では設計図書と向き合うことが多いが、DIYも板についている
 

これからは地域へ恩返しを。母校の九州大学とも積極的に関わっていきたい、という真鍋さん。実は移住後、半年足らずでコロナ緊急事態宣言が出され、自粛を余儀なくされる中で、糸島の可能性についても考えていた。。

地域の方々にご近所さんとして認めていただいて、一日も早く溶け込んで暮らしていくのが理想。ずっと自分の生活のために働いてきたので、これからは地域も含めた自分の周りの方々への恩返しの時と考えています。母校である九州大学の学生とも接点を持ちたいので、彼らが取り組んでいる「糸島空き家プロジェクト」にも、仕事で培ってきたことを活かして積極的に関わっていきたいと思っています。

コロナ禍で一つ恩恵と呼べるものがあるとすれば、リモートワークが一般的になったこと。一部のIT企業だけでなく、多様な職種の方々が、どこに住んでいても仕事ができると気付いたのではないでしょうか。通勤のストレスは想像以上で、それがなくなるのはとても良いこと。どこに住むか、何をするか。暮らし方のバリエーションは様々あり、価値観も人それぞれ。それが認められる時代になった。移住先としての糸島の注目度はますます高まっていくと思います。

散歩コースの加布里漁港。背後の山は糸島富士・可也山
 

「それにしても」と、真鍋さんが心配するのは、なかなか住まいが見つからないという現状。ご自身の体験からも、住宅の供給をどうするか、「空き家バンク」の運営を含め、みんながハッピーになれる仕組みをと、言葉に力がこもった。

プロフィール(2021年4月現在)

●真鍋浩二さん 62歳

●糸島移住歴 1年半

●仕事 一級建築事務所代表

●以前の住まい 東京都