農業をやるなら芥屋の海のそばで。初めからそう決めていました。

思い出の地で農地と住まい探しに奔走


 
芥屋に住むようになって、二人でよく釣りに行くようになったという。

20代前半で農業を志した今村さんが、農地を探す時に真っ先に思ったのが、親戚が住んでいた志摩芥屋でした。小さい頃、福岡市の実家から数え切れないほど通った思い出の場所。夏の海水浴、父との海釣りと、懐かしさでいっぱいに。
「親戚の家には、確か農地もあったはず」
しかし残っていたのは、空き家となった建物だけでした。実家から福岡県農業大学校へ通い、休日は芥屋で農地を探す日々。1年半かけて見つけたのが、現在のハウス3連棟(約700㎡)です(※1)。

就農後は、やはり芥屋に借家を求めますが、なかなか見つからず、いったん、少し内陸の師吉地区に住み、ハウスへ通うこと6年。同じ志摩エリアとは言え、住まいと農地が離れているのは不便だったに違いありません。
そうして7年目の一昨年、結婚を機に再び住まい探しに本腰を入れます。空き家を何軒となく見て回っていたところ、たまたま不動産市場に公開された古民家が条件に合い、購入しました。

「空き家は地元の人に聞いたりして、かなり探しました。市役所の方より詳しいと思います」(笑)
古民家にこだわったわけではなく、選果や出荷作業ができるスペースが必要なため、大きな納屋のある古民家は好都合だったのです。屋根を修理し、内装にも手を入れました。
「少し時間はかかったけど、芥屋に住んで農業をやりたいという夢が叶いました」と、日焼けした顔は晴れやかです。

(※1 農地を買ったり借りたりする場合は、農業委員会の許可が必要です)
 
甘い中にも野性味が感じられる今村さんのトマト

今村さんは農業大学校ではトマトを専攻。今もトマト専業でやっています。
「なぜトマトを?」
「野菜の中でいちばん好きだから(笑)」
なるほど、今村さんの判断基準は明快。就農場所を決めるのもそうですが、聞いていて気持ちが良い。

農業大学校で学んでいたころ、研修先の芥屋のトマト農家で、それまで食べたことのない甘いトマトに出会い、感動。目指すトマトの方向が定まりました。イチゴの「あまおう」に匹敵する糖度のトマトができることもあるそうですが、「まだまだ理想には遠い出来です」と、工夫に余念がありません。農地も、ハウスと合わせて3700㎡に広げ、新しい取り組みを始めています。

時間を見つけて奥様と海釣りへ。やっぱり海がいちばん!

芥屋では若い世代の農家が少なく、また地域の担い手となる現役世代が地域外へ勤めに出ることが多いそうです。一方で、地域のことがわからないまま移住するケースも見られ、地域行事一つにも運営面での課題が出始めています。
「街のわずらわしさから逃れてこちらに来る人もいますが、実際は田舎のほうが人間関係は濃い。そこはうまくやっていかないといけない。逆に、仲良くなればこれほど力強いものはない」と。

芥屋の暮らしは、「時計がいらない。太陽の昇り具合で時間がわかる。やっぱり海がいちばん!」という今村さん。かつて父親とよく行った海釣りは、今はもっぱら奥様の知佳さんと二人で。
「昨年は4回くらい行ったかな。今年は10回行こう!」(笑)
 
 
今村さんのお気に入りスポット「幣の浜」
芥屋の大門から野北浜まで約6キロにわたって砂浜と松原が続く、玄海国定公園を代表する海岸です。
「天気の良い日は長崎県の壱岐が見えます。いちばん糸島らしい光景」と、今村さん。
海岸沿いの「サンセットロード」は、潮風の中、快適なドライブが楽しめます。
 

プロフィール(2022年3月現在)

●今村宏治さん 30代 ●糸島居住歴 8年 ●仕事 農業(自営) ●以前の住まい 福岡市